例の図書館の事件に関して

愛知県岡崎市立図書館にサイバー攻撃をしかけたとして図書館が被害届を出し、男性(39)が逮捕され、不起訴になった問題で、大羽良・同館長は21日、同市役所で報道陣に対し、「(男性の自作プログラムに)違法性がないことは知っていたが、図書館に了解を求めることなく、繰り返しアクセスしたことが問題だ」と説明した。

(中略)

ホームページが閲覧できなくなったことについて、大羽館長は「図書館側のソフトに不具合はなく、図書館側に責任はない」との認識を示した。

図書館長「了解求めないアクセスが問題」 HP閲覧不能

図書館長のおっしゃる気持ちはわからないでもないが,情報産業に携わる人間から見れば,件の男性がとった行為は了解を要するほどのことであるとは見なされない.すでに専門家の方々が指摘されているとおり,原因は「図書館側のソフトの不具合」にある.

もっとも,いわゆる IT 屋の中には図書館長に対して「何をたわけたことを言っているのだ」といった冷ややかな態度を向きもありそうだが,個人的にはこの態度も少し考えものであるように感じる.

今までの(現実の)世界では,「してはいいこと」「してはまずいこと」に関して人々の間に共通認識(※)が存在して,まあ社会集団による違いが問題になることはあるにせよ,上の記事で述べられているたぐいの問題が発生することはなかった.ところが,情報の世界では,まだこれらに関する共通認識が完全には形成されていない.また,いわゆる IT に強い人々の間で形成され共有されている認識が,それ以外の人々に対しては必ずしも共有されていないという問題もある.実のところ,私自身も今ひとつわからないでいる.一応は情報産業に携わっているはずなのだが.

「みんなで使うものを壊してはならない」ことはおそらく人々の間で共有された認識であり,これに従えば,件の男性はそれに反する行為(サービスを動かなくする行為)を行ったわけだから非難されてしかるべき,と考えるのは自然である.実際のところは「もともと壊れても仕方がないものをその男性がたまたま壊してしまった」だけであるが,図書館長はそのことを知らなかったわけだから,上記のような多少「ずれた」発言が出ることは,ある程度はやむを得ない.

さらに言えば,アクセスの頻度はどの程度まで許されるか,ということに関してははっきりとした共通認識があるとは思わない(一秒間に数百回とかはまずい,といった程度の認識しかない).そもそも「一秒に一回」ならば問題ないのか,ということも明らかではない.そのため,図書館に対して納得のいく説明をするのは難しいように思われるし,それがまた図書館長の発言につながっているともいえる.

とはいえ,公権力による「逮捕」という行為は,その影響がきわめて大きい.だから,そのための判断はひとつひとつ丁寧に行って欲しいものである.

(※) 一般には「常識」と呼ばれる(が,私にはこの言葉が「そんなこと常識だろう」といった形で濫用されているという認識があるため使わない).