リーディングスキルテストの「あの問題」に対する私見
Twitter で一時期話題になった(テストの)問題がある。
(画像引用元)
率直に言って、ひどい文である。原作者によれば「意図的にわかりにくくした」ということだが、文が「わかりにくい」ことと「悪い」ことは直行する概念であって*1、悪文は悪文である。
これがどう悪いかは後で説明することとして、とりあえずは解答を確認しておこうと思う。
解答
これがどれだけ悪文だと主張したところで、答えになる可能性があるのは 2 だけである。
「メジャーリーグの選手のうちアメリカ合衆国以外の出身の選手は 28% であるが」とあるので、アメリカ合衆国出身の選手が 72% であるとわかる。ここに疑問の余地はない。したがって 3 と 4 は論外。1 は(この点に関していえば)一見よさそうに見えるが、よく見ると全体が 1000 人ではなく 1035 人であるので、アメリカ合衆国の選手の割合は 720/1035 ≒ 0.696、すなわち 70% に満たないことになる。これを 72% と主張するのは無理があるので、1 も妥当とは言いがたいという結論になる。
妥当な選択肢が少なくともひとつは存在することを仮定してよいならば、この時点で解答は一意に決まっており、残りの文は読む必要すらない。このことがこの問題に対する心証をさらに悪くする要因になっているが、これは文というよりは選択肢がよくないという話なので、この話題は脇においておく。
解釈
とはいえ、本当に 2 が妥当であるかを確認するには残りの部分も理解する必要があるので、このまま読み進めることにする。
「その出身国を見ると」の「その」が指す語句は「アメリカ合衆国以外の出身の選手」と考えてよいだろう。理屈上は「メジャーリーグの選手」という可能性もあるが、それだと「アメリカ合衆国以外」という話題を切り出した意味がわからなくなってしまう。
「ドミニカ共和国が最も多く」とあるので、どうやらドミニカ共和国出身の選手がアメリカ合衆国出身の次に多いこともわかる。ここは明確である。
最後に「およそ 35% である」とある。これが厄介。ここには 2 通りの解釈の可能性がある。
とはいえ、後者の解釈では全体の割合が 100% を超えることから前者の解釈しかないとわかる。したがって、全メジャーリーグ選手に対するドミニカ共和国出身の選手の割合は 0.28 × 0.35 = 0.098、すなわち約 9.8% ということがわかる。これは 2 のグラフで示されている値と一致する。
文の曖昧性
今回は 72%、35% という数字のおかげでたまたま一意に解釈が定まったが、ほかの数字では一意に解釈が決まらない可能性があった。たとえば、
メジャーリーグの選手のうちアメリカ合衆国以外の出身の選手は 28% であるが、その出身国を見てみると、ドミニカ共和国が最も多くおよそ 15% である。
のように少し数字を変えると、ドミニカ共和国の選手の割合が、全体の 15% なのか、アメリカ合衆国以外の 15% なのか、もはやはっきりしない。「いや、アメリカ合衆国以外の 15% に決まっているだろう」という諸氏、次の文ではどうだろうか。
メジャーリーグの選手のうちアメリカ合衆国出身の選手は 72% である。それ以外はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが、その出身国を見てみると、ドミニカ共和国が最も多くおよそ 15% である。
全体の 15% と解釈するほうが自然ではなかろうか。単に 28% という数字を文面から隠しただけなのだが。
何がまずかったのか
出題者には「ドミニカ共和国出身者は外国出身者(28%)のうちの 35% を占める」という意図があったはずであるが、それが「その出身国を見ると」という不十分な表現でしか表されていなかったことに件の文のまずさがある。この表現では、アメリカ合衆国以外の国について考えることは明確になるが、その割合を絶対値(全体に対する割合)で考えるのか、相対値(外国人選手に対する割合)で考えるのかは明確にならない。
最小限の変更にとどめ、あえて文の読みにくさを残したいということであれば、以下のように「内訳」という語を加えるのが最も簡単だろう。
メジャーリーグの選手のうちアメリカ合衆国以外の出身の選手は 28% であるが、その出身国の内訳を見ると、ドミニカ共和国が最も多くおよそ xx% である。
意味もなく読みにくいという印象はなお拭えないが、「内訳」という語があることによって、xx% が相対値(外国人選手に対する割合)であることは明らかになる。
「12%」の信憑性
文自体の問題ではないが、28% × 35% = 9.8% という計算は不必要に複雑であり、読解力を測る問題でこれを要求することは妥当な選択とは言いがたい。
もちろん、対象は中学生以上であるので、総合的学力という観点で考えるならばこの程度の計算はできて欲しい。要領のよい生徒ならば暗算*2あるいは概算*3で検証できるだろうし、そうでなければ筆算をするだけの話である。
とはいえ、数字に「アレルギー」を持つほど算数/数学を苦手とする生徒がいる現実があることを考慮すべきである。中には、28%、35% という数字を見たとたん、問題に取り組むことすらも放棄した生徒もいたのではなかろうか。総合的学力を測るテストであるならば何の問題もない。しかし、あくまでも「純粋な読解力」を測りたいのであれば(参考)、読解力不足のほかに正答率を下げる要因が存在することは好ましいとは言えない。「12%」という正答率の数値の信憑性も下がる。
現実的なことを言えば、国語の学力と数学の学力の間にはいくらか正の相関があるはずだし、最初に述べたとおり文の全部を理解しなくても正答できることもあるので、上記の問題が正答率に大きな影響を与える可能性は低い。けれども、「科学的調査」を謳うのであれば、こういった細かな問題にも気を配って欲しいところである。
今日はここまで
出題の意図、背景などについてもいくらか思うことがあるのだが、それに関しては別の記事で述べることとしたい。